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大阪地方裁判所 昭和25年(行)12号 判決

原告 森喬 外二名

被告 布施市 布施市長 建設大臣 大阪府知事

一、主  文

原告等の訴を却下する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、請求の趣旨

原告等訴訟代理人は、被告四名との間に

一、被告布施市が、被告大阪府知事及び被告建設大臣に対してなした

(一)  昭和二十三年十二月二十六日附布施市公会堂建築許可申請

(二)  昭和二十四年十二月十二日附公会堂設計変更願の無効なることを確認する。

二、(一) 被告建設大臣が、右申請に基いてなした、昭和二十四年二月十七日附建許第三、〇三二号布施市公会堂建築許可

(二) 被告大阪府知事が、右申請に基いてなした

(イ)  昭和二十五年一月二十一日附第二七七号建築許可

(ロ)  昭和二十五年二月四日附第三九、四二七号設計変更認可

のそれぞれ無効なることを確認する。

三、被告布施市および被告布施市長との間に

(一)  布施市会が

(イ)  昭和二十三年十二月以前、公会堂建築の決議をした事実のないこと、

(ロ)  昭和二十四年十二月以前、公会堂設計変更の決議をした事実のないこと、

(ハ)  昭和二十四年十一月十八日公会堂使用條例案を議決した事実のないこと、

(ニ)  昭和二十四年十一月十八日公会堂増改築費起債の件を議決した事実のないこと、

(二)  布施市会の

(イ)  昭和二十四年四月二十八日第六号起債の件

(ロ)  昭和二十四年四月二十八日第七号建物賃貸借契約締結の件

(ハ)  昭和二十四年四月二十八日第八号随意契約の件

(ニ)  昭和二十五年一月三十日和解契約締結の件

の各決議の無効なることをそれぞれ確認する。

四、訴訟費用は被告等の負担とする。

との判決を求めた。

三、事  実

被告布施市長は、昭和二十三年十二月二十六日被告大阪府知事および被告建設大臣に対し、布施市公会堂建築許可および認可の申請をし、昭和二十四年十二月十二日には同公会堂設計変更願を出した。そしてこれに対し、被告建設大臣は昭和二十四年十二月十七日同日附建許第三、〇三二号をもつて右公会堂の建築許可をし、被告大阪府知事は昭和二十五年一月二十一日同日附第二七七号をもつてその建築認可をした。

そして被告布施市が右公会堂の建築許可および認可の申請にあたつて、その建築の理由として示したところは、布施市足代一丁目六十八番地に鉄骨鉄筋コンクリート三階建の公会堂一棟を工事費一千万円を投じて建設し、市民の要望にこたえ、公民教育、公民運動の目的達成に資せんとするものであるというのであつて、その申請書に添付した建築理由書にはなお、『先般市会においてこれが築造の議が決定した』と、すでにその建築について市会の議決を経ている旨を記載している。

しかし、右許可および認可手続に関しては、つぎのような事情が伏在している。

すなわち、被告布施市長塩川正三は、市長就任以來漸次市会に與党議員を獲得し、昭和二十三年末頃には市会の過半数を制するにいたり、市長の提案はすべて市会の可決を得られざることなく、市政万端意のままなる情勢にあつて、次第に一般市民の利益を無視し、市政を私する傾向が甚しくなつてきたものである。ところで、ここに、布施市足代二丁目四番地の岡島興業株式会社なるものが、同市足代一丁目六十八番地に土地建物を有し、その建物を改造して常設映画館を建設経営せんとし、昭和二十三年十二月までに前後すでに三回にわたつて所要の建築許可の申請をしたが、そのつど却下されて目的をとげることができないでいた。そこで、同訴外会社の代表者たる訴外岡島音松が、たまたま被告布施市長塩川正三と親密な間柄であつたので、同被告に右の建築許可が得られるよう盡力を頼み、被告布施市長はその依頼に應ずることとし、右訴外人と結託の結果、その目的達成の手段として、被告布施市の名義をもつて布施市公会堂の建築に名をかり前記地上に建築許可を受け、その建築完成後はただちにこれを映画館として右訴外会社の経営支配に移すという方策をたてた。そしてこれに基いて、被告建設大臣および被告大阪府知事に対し前記の通り布施市公会堂の建築許可および認可の申請をし、その許可および認可を受けたのであるが、右申請当時には布施市会において公会堂建設の議など全然なかつたのに、前記の通り、建築理由書に麗々しく市会の議もすでに経ているなどと書いて、被告建設大臣および被告大阪府知事をあやまらせている。こうしておいて、右訴外岡島音松が上記地上に映画館一棟を築造し、昭和二十四年十一月に完成したが、被告布施市長は右竣工に先だち、公会堂建設の外形をととのえるため布施市会にその建設に関する予算案その他所要の議案を提出し、市長與党派が多数を占める同市会は右の内情を察知しながらそれらの議案を通過させた。かくて同年十一月二十五日には、被告大阪府知事その他の來賓を迎えて盛大に公会堂落成式をあげ、ここに市の内外にむかつて、まことに布施市公会堂が予定の通り完成したような擬態をかまえたのであつた。しかる後市会に工作して、昭和二十五年一月三十日には、はやくも前記訴外会社との間に右公会堂建築に関する和解契約を締結する旨の市会の議決を得、これによつて市公会堂として建設されたはずの右建物は右訴外会社の支配に帰してその映画館となり、上記岡島音松との結託による術策はここに効を奏してその目的を達したのである。

上記建築許可および認可手続にまつわつて、以上のごとき事情が伏在するのであり、これによれば当然つぎの通りの結果となるものといわねばならない。

一、被告布施市が被告建設大臣および被告大阪府知事に対してなした請求の趣旨第一項に掲げる公会堂建築の許可および認可の申請は、いずれも無効である。

それは、右申請書には、上に述べたように、あらかじめ市会の議決を経ていると記載しているけれども、そのような議決はなかつたのであり、これがないかぎり、市長に右許可および認可を申請する権限はないのであるから、右申請は被告布施市長が権限なくして行つた行爲で、被告布施市の申請としては無効というほかはない。

二、右申請に基いて被告建設大臣および被告大阪府知事のなした請求の趣旨第二項に掲げる許可および認可もまた無効である。

それは、被告布施市長による申請が右の通り無効である以上、これに基いてなした許可および認可の無効なことはいうまでもない。また、その申請書には、前記の通り、市会の議決がなかつたにもかかわらず、その議決があつたと虚構の記載がなされており、これを信用してなした許可および認可は欺罔によるものでその点においても無効たるをまぬがれない。

三、つぎに、請求の趣旨第三項の(一)に掲げた布施市会の各議決は、上述の通り、被告布施市長が右建築許可および認可申請のために虚構したにすぎないもので、実際にはそのような議決はなかつたわけである。

四、また、請求の趣旨第三項の(二)に掲げた布施市会の議決は、上記建築が内実ははじめから訴外岡島興業株式会社の映画館築造を目的とするものであることを知りながら、これに公会堂建設の外形をよそわせんとする市長に同調する市長派與党議員によつて押し通されたもので、まつたくその眞意を欠く無効の議決といわねばならない。原告等三名は、いずれも現に布施市会議員であり、布施市民十四万の利益のため市政を正さんとの熱意から以上の理由にもとずいて請求の趣旨記載通りの判決を求めるため本訴におよんだ次第である。各被告等訴訟代理人は、いずれも、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁としてそれぞれつぎの通り述べた。

被告布施市および被告布施市長訴訟代理人の述べるところは、つぎの通りである。

「まず、建築許可または認可申請の無効および布施市会の議決の不存在と無効との確認を求める原告の本訴請求部分は、訴をもつて確定を求める利益を欠く。

第一に、建築の許可および認可の申請は、所管の行政廳に対し建築許可または認可なる行政処分を求める行爲で、それ自体は独立して法律関係を形成変更する処分ではなく、許可または認可の処分の効力と別に、申請行爲自体の効力などを判決をもつて確定することは、法律上何の利益もない。また本件のような市会の議決は、議決自体としては市の内部的意思決定の段階にすぎないもので、それ自体は法律関係を形成変更する処分ではないから、その不存在または無効を判決によつて確定することは、やはり法律上何の利益もない。從つて原告の本訴請求のうち、右の部分はすでにこの点で失当といわねばならない。

さて、被告布施市長が被告建設大臣および被告大阪府知事に、原告主張のような布施市公会堂建築許可および認可の申請をし、これに対し、それぞれ許可および認可のあつたことは認める。それは、昭和二十四年一月十九日公会堂建築許可申請、同年十二月十七日右公会堂設計変更許可申請をしたもので、前者の申請に対しては同年二月十七日許可第三、〇三二号をもつて被告建設大臣および被告大阪府知事より許可があり、後者の申請に対しては被告建設大臣から昭和二十五年一月二十一日許可第二七七号をもつて前の第三、〇三二号の許可を取消し、あらためて設計変更にもとずいた建築許可があつたものである。

右許可および認可手続にからまる内情として原告等の主張する事実は否認する。すべて荒唐無稽の事柄にすぎない。

つぎに、布施市会の公会堂建築の決議が『公会堂を設置する』という決議の形でなされたことのないことは認めるが、昭和二十三年十二月二十三日布施市会は、議案第一七四号として提出された『昭和二十三年布施市歳入歳出追加更正予算』案を可決し、そのうちに公会堂築造についての予算が計上されており、公会堂建築のためにはこれをもつて足るもので、そのほかに別に「公会堂を設置する」旨の議決を必要とするものではない。

そのほかに、原告等が不存在を主張する布施市会の議決はすべて有効に存在し、また、無効を主張する議決は、原告等の主張するような事情でなされたものではなく、すべて適法になされていて無効とされるいわれはない。

また、原告等は市が公会堂建築許可および認可の申請をするには、市会の議決を要するというが、申請の要件として市会の議決を必要とする法律上の根拠はない。被告布施市の上記建築許可および認可の申請は、いずれも適法になされており、これに対し、被告建設大臣および被告大阪府知事は十分審査の上適法に許可および認可をしたものであつて、いずれも無効となる理由がない。

原告等の本訴請求はすべて失当である。」

被告建設大臣訴訟代理人の述べるところは、つぎの通りである。

「原告等の主張するように、被告布施市から被告建設大臣に対する布施市公会堂建築許可の申請およびこれに対する被告建設大臣の許可があつたことは認めるが、それは正確にはつぎの通りである。すなわち、被告布施市長から昭和二十三年十二月二十六日臨時建築制限規則(昭和二十三年建設省令第二号)に基いて布施市公会堂築造許可の申請をし、さらに、その後改正された同規則(昭和二十四年建設省令第九号)に基いて昭和二十四年十二月十二日右公会堂設計変更のための築造許可の申請をし、これに対し、被告建設大臣は、昭和二十四年二月十七日その築造許可、昭和二十五年一月二十一日設計変更に伴う増築の許可をし、なお、後者の許可をもつて前者の許可に代えたものである。

そして、被告布施市長からの上記申請にもられた建築の趣旨が、布施市足代一丁目六十八番地に鉄骨鉄筋コンクリート造三階建公会堂一棟を建設し、市民の要望する公民教育公民運動の目的達成に資せんというにあつたこと、およびその申請書に添付された建築理由書に「先般市会においてこれが築造の議が決定したものである」という記載があつたこと、なお、原告等が現に布施市会議員であることは認めるが、原告等主張のその他の事実は知らない。

さて、まず原告等の請求のうち、右の建築許可の申請自体の無効確認を求める部分が判決をもつて確定する利益のないことは被告布施市および被告布施市長訴訟代理人の述べるとおりである。

また、被告建設大臣の建築許可の無効確認を求める部分については、原告等はその許可によつて生ずる法律関係に対して直接利害関係を有するわけがないのであるから、判決による無効確認を求める利益がない。仮に、その利益があるとしても、右許可の申請は、原告等主張のように市会の議決を要件とするものではないし、その有無のごときは右許可の効力に何等影響をおよぼすものではなく、右の申請および許可はいずれも適法になされたもので無効とするいわれはない。

原告等の本訴請求は失当として棄却さるべきである。」

被告大阪府知事訴訟代理人の述べるところは、つぎの通りである。

「被告布施市から被告大阪府知事に対して、布施市公会堂の建築認可の申請があつたことは認めるが、それは正確にはつぎの通りである。すなわち、被告布施市長から市街地建築物法に基いて昭和二十三年十二月二十六日公会堂建築(増築、修繕、変更、用途変更)認可を申請し、さらに昭和二十四年十二月十二日公会堂の建築(設計変更、増築)認可を申請し、被告大阪府知事は、前者の申請に対し昭和二十四年五月九日、後者の申請に対し昭和二十五年二月四日それぞれ建築認可したものである。

原告等は、被告布施市を代表する被告布施市長の右申請が、これに関する布施市会の議決を欠いた無効のものだと主張するが、右の申請は、その建築が位置、構造、設備などの点において市街地建築物法上認容できるものかどうかの判断にもとずく認可を求めているのにすぎないもので、市会の議決の有無のごときは申請の適法不適法、いわんや認可の適法不適法の点には関係のないものであり、原告等の右の主張はもとより理由がない。

また、原告等は、被告大阪府知事の認可は、申請書に公会堂建築に関する布施市会の議決がなかつたのにすでにこれを得ている旨虚構の記載をした建築理由書が添付されており、このことを信じてあやまつてなしたもので無効であると主張するが、被告建設大臣に対する別途臨時建築制限規則にもとずく建築許可申請書には、そのような建築理由書が添付してあつたけれども、被告大阪府知事に対する右認可申請書には別にそのような建築理由書は添付してなかつたから、この点の原告等の主張は問題にする余地がない。

ひつきよう、被告大阪府知事の右認可は、適法な申請にもとずき適法になされた有効なものというほかなく、原告等の請求は失当である。」

四、理  由

最初につぎのことを明らかにしておきたい。

現在の民事訴訟制度のもとにおいては、法律関係の形成変更または確定に関係のあるすべての事実ないし行爲の存否または効力が一つ一つ訴訟の目的となり訴をもつてその確定をもとめることが許されているものではないし、また、それが許される事柄についても、誰でもがその訴をおこすことを許されているものではない。

原則として現在の権利ないし法律関係の存否のみが裁判をもつて確定するに適し、裁判は現在の権利ないし法律関係の確定に仕えればそれで裁判としての社会的機能を果すに十分であるとする見地から、單なる事実または過去の法律関係の存否の如きは裁判をもつて確定するに適しないものとし、その確定を求める訴を不適法とする建前をとつているものである。ただ一定の事実の存否自体の確定が、法律的生活関係において権利の確定に匹敵する重要性をもつと認められる場合に、法が例外的にこれを訴の目的として認めること民事訴訟法上の文書眞否確認の訴訟の如きものがあるが、稀な例外とせねばならない。

つぎに事柄自体は訴訟の目的とするに適する場合でも、さらに、誰でもがそれを訴訟の目的として訴を起すことが許されているものではない。その訴をおこすことが、法律的生活関係上ぜひ必要だと認められる者だけがその訴を起すことが許されるもので、かかる者の訴に基いて裁判をしさえすれば、それで裁判の社会的機能は十分果されると考えられているわけである。その、訴をおこすことがぜひ必要だと認められる関係を訴についての正当な利益とよぶが、裁判を求める目的が一般的に法の正しい適用を欲する気持、いわば正義感の満足を求めるというだけの場合とか、また、その裁判の結果が直接法律的に自分等に関係があるわけではないが、その裁判に勝てば事実上自分等に有利な事態がおこるにちがいないというような、間接的事実的な利益をねらつているだけの場合など、ここにいう訴についての正当な利益がある場合とはいえない。

以上の民事訴訟の原則は、行政事件訴訟についても維持さるべきことは疑がない。これを行政処分取消または無効確認の訴訟についていえば、そこで効力の爭われる行政処分は、これによつて直接権利ないし法律関係の形成変更または確定をもたらした処分で、その処分の効力を確定することが直ちにとりもなおさずそこに形成変更または確定された権利ないし法律関係の存否を確定する意義をもつ関係にあるものでなくてはならないし、また、その行政処分によつて権利を侵害された者でなければその訴をおこすことができない点において右の民事訴訟の原則はここにもつらぬかれているわけである。もつとも、例えば自作農創設特別措置法が、同法による農地買收手続中の買收計画の如き権利の変動をもたらすべき最終の処分でない行政行爲に対して、その取消の訴訟を認めていると解されている場合のように、行政の円滑な運営を期する上において行政事件訴訟については法が特に上記原則につき例外の場合を規定することがあり、また、ある行政処分のもたらした法律関係が過去のものとなつた後においても、その効力を一般的拘束力をもつて一元的に明確にすることが特にのぞましいとする立場から、なお、その行政処分の効力の確定を訴訟の目的とすることを認め、さらにはこれを要求する必要があると解すべき余地があるとせねばならないが、このことは別に上記民事訴訟の原則における根本の立場に変更を加えるものではない。

さて、以上のことをまず念頭におきながら、本件についての考察をすすめることにする。

まず、原告は被告布施市長が被告布施市の代表者として、布施市公会堂の建築について、被告建設大臣に対してなした建築許可の申請および被告大阪府知事に対してなした建築認可の申請と、これに対する被告建設大臣の建築許可および被告大阪府知事の建築認可が、それぞれ無効なることの確認を求め、その被告建設大臣に対する申請およびこれに対する同被告の許可が、臨時建築制限規則による建築許可の申請およびその許可であり、被告大阪府知事に対する申請およびこれに対する同被告の認可が市街地建築物法による建築認可の申請およびその許可であることが明らかであるが、そもそも右建築許可および認可の申請行爲は、行政廳たる建設大臣または知事に対して通常は私人がなすべき行爲で、もともと行政廳に固有な行爲ではなく、たまたま行政権を行使する市町村がなしたとしても、それは、いわば私人と同一の立場で行爲をしているにすぎないというべきで、行政法上の行爲ではあるがもとより行政行爲ではない。のみならず、その申請行爲は、それ自体は、建設大臣または知事に、これに應答する処分をなすべき義務を生ぜしめる形式的な効果を有するにとどまつて、別に具体的な法律関係の形成変動または確定の効果をもたず、その効力を裁判で確定してみたところで、法律的に何物をも解決することにはならない。すなわち、その申請行爲自体の効力の確定の如きは独立した訴訟の目的としては不適法であること、さきに述べた民事訴訟の原則から考えて明らかなところである。これを例えていえば、契約は申込と承諾との二つの行爲の複合からなる法律要件でその法律効果として債権関係を発生せしめるのであるが、その債権関係の存否を別にして、申込とか承諾とか、契約という法律要件の一部たる一つ一つの行爲の効力を一つ一つ裁判をもつて確定することが、法律的におよそ無意味なこと、從つて疑もなくそのようなことの訴訟法上許されないものであるのと軌を一つにするものである。

また、被告建設大臣の臨時建築制限規則による右建築許可処分についていうと、同規則は臨時物資需給調整法に基くものであり、同法の目的とするところは、今次の戰爭によつて荒廃に帰したわが国経済の再建をはかるため、不足した物資が不急な用途に流れることを防ぎ、これを重要適切な用途に充てしめんとするもので、その目的から建築についての制限を規定したものが右臨時建築制限規則であり、その趣旨とするところは不足した建築資材が結局不急の建築のために使用消費されることになるのを防ぎ、ひいてより必要度の高い建築のためにその資材を確保せんとするにあるわけで、同規則による建築の許可もその趣旨に則つて行われるものである。從つて、その許可が、違法または不当に行われた場合にも、それによつてそこなわれるものは右規則の目的とする建築資材等の適切な需給の調整であり、国民にとつてひとしく利害関係のあるわが国経済の再建そのものの歩度であつて、特定の個人の利益に直接には関係がない。

從つて建築許可の申請が却下された場合は別として、許可された場合には何人もその処分の無効を裁判をもつて確定することを求める法律上の利益はないものとせねばならない。

その違法または不当は、行政監督の問題であり、終局には政府の政治的責任問題であつて、かの民衆訴訟とよばれるもののように、法が特にそれについての訴訟を認めた場合のほか裁判所の判断が介入する余地はない。

つぎに、被告大阪府知事の市街地建築物法に基く建築認可処分についていうと、同法は、都市生活の安全と快適をはかる目的で、市街地において建築物をその種類構造設備等によつて合理的に配置するとともに一定の規格を保たしめるために建物の建築または使用を制限するもので、同法に基く府縣知事の建築認可も、もつぱら右の目的を考慮してなされるものである。從つてその認可が、違法または不当になされた場合これによつてそこなわれることのあるのは、右法律によつて確保せんとする当該市街地における都市生活の安全と快適とであつて、処分そのものは特定の個人の利益には直接に関係がない。從つて何人も、その無効を裁判をもつて確定することを求める法律上の利益のないこと、さきの場合と同様である。かりに、ある場合、例えば当該建築によつて、直接健康または営業ないし財産に危險を受けるべき隣接居住者には、右の利益がある場合があるとしても、原告等がかかる種類の個人的利害関係があつて本訴をおこしたものでないことは主張自体明らかであり、布施市会議員として一般市民の利益のため本訴をおこしたというのであつて、その程度の利害関係は右の訴の利益というに適しないとせねばならない。

つぎに、原告等は、布施市会の議決の不存在と無効との確認をもとめているが、市会の議決の如きは、議員の懲罰等の如き例外の場合を除いては、一般に市の内部的意思決定たるにとどまり、それ自体にはいまだ法律関係を直接形成変更または確定せしめる如き効果があるものではないから、その不存在また無効を理由に、その後これを前提として行われた行政処分の効力を訴訟をもつて爭えば足り、議決自体は取消または不存在ないし無効確認訴訟の目的とするに適しないものといわねばならない。原告等が本訴に不存在および無効の確認を求める布施市会の各議決についても右の例にもれるものとは考えることができない。從つて原告等のこの請求も不適法といわねばならない。

しからば原告等の本訴請求は、すべて訴の利益を欠き本訴は不適法として、これを却下するほかはない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 浜本一夫 鈴木敏夫 麻植福雄)

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